東京地方裁判所 昭和38年(ワ)9632号 決定 1967年10月26日
原告(破産者) 小林末松
被告 堀尾嘉朗
<ほか一名>
主文
原告の申立を却下する。
理由
本件受継申立の趣旨は「本訴の訴訟手続は原告の破産のため中断中であるが、原告は破産法第二四〇条二項、同第二四六条により訴訟手続の受継を申立てる」というにある。
よって検討するに、一件記録によると、原告は被告らに対し、手形振出の原因関係の消滅を事由に別紙目録記載①ないし⑧の手形の支払義務の存しないことの確認、及び右八通の手形の返還を求める本訴を提起したところ、原告は昭和三八年一一月二六日午前一〇時破産宣告をうけ、これにより本訴の訴訟手続は中断した。しかして、右破産手続における債権表の記載によれば、被告堀尾待太郎より約束手形金債権五、〇〇〇、〇〇〇円、同金五〇〇、〇〇〇円および右利息金債権金五〇三、三三二円、同金四五、三三二円の各破産債権(別紙目録記載①と③の手形金)の届出があり、債権調査期日において原告たる破産者のみが異議を述べ、破産管財人及び他の破産債権者との関係で破産債権は確定をみた事実が認められる。
ところで、債権調査期日における破産者の異議は届出のあった破産債権についてのみなされ、その範囲において破産手続外の債権(無名義債権)の確定を妨たぐる効力を有するのみであるから届出のない別紙目録記載の②及び④ないし⑧の手形に関する債権は、破産者の異議の対象とならないので破産法第二四〇条二項の関知せざるところであり、右請求部分は原告に対する破産宣告により中断中である。
次に、別紙目録記載①と③の届出のあった手形債権の部分の受継申立につき案ずるに、破産法第二四〇条二項の趣旨は、破産者が異議を述べることにより破産債権者と破産者との関係で破産債権の存否が不安定となるので破産債権者に、破産手続外でその債権(請求権)の存否の確定につき中断中の訴訟がある場合に限って受継申立を認めたもので、破産者に受継申立権を附与したものでない。なんとならば、破産開始により破産財団はすべて破産手続により処理され、かつ破産者は破産財団の管理及び処分権を停止されている(破産法第七条)者であって、中断中の訴訟を復活せしめて破産手続外において破産債権とその債権の存否を決する法律上の利益がないからである。もっとも、破産債権者に破産手続外で届出債権の存否につき訴訟受継申立権を附与しながら、その当事者たる破産者にこれを附与しないのは、訴訟当事者の地位を不平等に遇するきらいがないでもないし、又破産者の法律上の地位の不安定を除去する必要がないと言えなくもないが、破産者は債権調査期日に異議さえ述べておけば、破産終了後の執行は十分阻止しうるし、破産者は、異議を排除せんとする破産債権者の受継申立によって訴訟が復活した場合に、これを向え討つ地位が保障されておれば破産者の保護として必要かつ十分で、破産者には、中断中の訴訟受継申立権はないものと解するのを相当とする。従って別紙目録記載①と③の部分の請求も中断中である。
次に、原告は破産法第二四六条により受継の申立をすると言うが、同条は破産債権として届出られたものにつき、破産管財人又は他の破産債権者からの異議があったことによって破産手続上の確定が妨げられた破産債権を、異議を受けた破産債権者と、異議者たる破産管財人又は破産債権者との関係で債権の確定を図る為、破産者との訴訟を債権確定訴訟として切り替え利用する為の手続規定であって、本訴の訴訟手続を本条により受継することができないのは明らかである。
以上、原告の受継申立はいずれも理由がないのでこれを却下することとし主文のとおり決定する。
(裁判官 宇佐美初男)